トラウマからの歩き方

他者への貢献がトラウマからの回復にもたらすもの:レジリエンスを育む新たな視点と支援者のセルフケア

Tags: トラウマ回復, レジリエンス, 利他性, 他者貢献, セルフケア, サポート, 心理学, 回復のプロセス

はじめに

大切なご家族や身近な方がトラウマに苦しんでいらっしゃる姿を見るのは、非常につらいことです。どうすれば力になれるのか、適切なサポートができているのか、ご自身の心も疲れ果てていないかと、様々な不安を抱えていらっしゃるかもしれません。

トラウマからの回復は、一筋縄ではいかない複雑なプロセスです。しかし、回復を支える力の一つに、「レジリエンス」と呼ばれる心理的な側面があります。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、しなやかに適応し、乗り越える力のことです。そして、このレジリエンスを高める多様な因子の一つとして、「他者への貢献」、すなわち利他性が注目されています。

この記事では、トラウマからの回復における他者への貢献の意義と、それがどのようにレジリエンスを育むのかを専門的な知見に基づいて解説します。また、大切な人をサポートする中で、ご自身の「貢献したい」という気持ちとセルフケアのバランスをどのように取るべきかについても触れてまいります。

トラウマからの回復における「他者への貢献」の力

トラウマは、自己肯定感を深く傷つけ、世界から孤立しているような感覚や無力感をもたらすことがあります。回復の過程では、これらの感覚と向き合い、再び自分自身の価値や社会とのつながりを取り戻していくことが重要になります。ここで、「他者への貢献」が果たす役割は非常に大きいと考えられます。

トラウマ経験者が回復の途上で他者に何かを提供したり、誰かのために行動したりすることは、いくつかの重要な心理的変化を促す可能性があります。

これらの変化は、まさしくレジリエンスの構成要素(例えば、自己肯定感、目的意識、社会的つながりなど)と深く関連しています。他者への貢献は、単に「良い行い」であるだけでなく、回復者自身が内的な強さを再構築し、人生を再構築していくための能動的なステップとなりうるのです。

大切な人が「貢献」に向かうのをサポートするには

回復の度合いや個人の状況によって、「貢献」の形は様々です。最初は小さなこと、例えば身近な人の手伝いをしたり、ペットの世話をしたり、趣味のサークルで役割を担ったりといったことから始まるかもしれません。大切な人が回復の過程で他者との関わりや貢献に関心を示した場合、どのように寄り添い、サポートできるでしょうか。

大切なことは、回復の道のりは直線的ではないことを理解し、焦らず、本人の主体性を大切にしながらサポートすることです。

支援者自身のセルフケアと「貢献」のバランス

大切な人をサポートする行為そのものが、ある意味で「他者への貢献」です。献身的に寄り添うことは素晴らしいことですが、支援する側が燃え尽きたり、ご自身の心身の健康を損なってしまったりすることは避けなければなりません。

実は、支援者自身も、適切な形で他者と関わり、貢献感を得ることが、セルフケアや自身のレジリエンスを高めることにつながることがあります。例えば、同じような経験を持つ支援者同士が集まる場に参加し、互いに支え合ったり、自身の経験を共有したりすることです。これは、孤立を防ぎ、共感を得ることで精神的な負担を軽減し、自身の経験に意味を見出す機会にもなり得ます。

しかし、最も重要なのは、ご自身の心と体の状態に正直であることです。「貢献したい」という気持ちが、「しなければならない」という義務感や、「自分が何とかしなければ」という責任感にすり替わっていないか、立ち止まって考える時間を持つことが必要です。

ご自身の心身の健康を保つことが、結果として大切な人への持続可能なサポートにつながります。ご自身の「貢献」が、無理のない、心地よいものであるか、常に振り返る視点を持つことが重要です。

まとめ

トラウマからの回復の道のりは、時に長く困難に感じられるかもしれません。しかし、他者への貢献という視点は、回復者にとって自己肯定感や目的意識を取り戻し、レジリエンスを育む新たな力となり得ます。大切な人がこの道筋を歩む際には、焦らず、本人のペースを尊重しながら、安全な環境での小さな一歩を応援することが重要です。

そして、忘れてはならないのは、サポートするご自身の存在です。他者への貢献は、支援者自身の心の健康やレジリエンスにも良い影響をもたらす可能性がありますが、そのためにはご自身のセルフケアを最優先し、健全な境界線を保つことが不可欠です。ご自身を満たすことなくして、他者を継続的に支えることは難しいからです。

この困難な道のりを共に歩む中で、他者への温かい関わりが、回復者と支援者双方にとって、新たな希望と力をもたらすことを願っています。もし一人で抱えきれないと感じた際には、専門機関や支援団体のサポートを躊躇なく求めてください。