トラウマからの歩き方

レジリエンスを高める感情調整スキル:トラウマを抱える大切な人への具体的なサポートと支援者のセルフケア

Tags: トラウマ, 回復, レジリエンス, 感情調整, セルフケア

はじめに:感情の波とどう向き合うか

大切な方がトラウマによる苦しみを抱えているとき、その方の感情は予測不能な波のように押し寄せることがあります。怒り、悲しみ、不安、時には感情の麻痺など、様々な形で現れる感情の反応に、どう寄り添えば良いのか戸惑われる方もいらっしゃるかもしれません。また、そのような状況に日々向き合う中で、支援する側のご自身の感情もまた影響を受け、負担を感じることもあるでしょう。

トラウマからの回復の道のりにおいて、「感情を調整する力」、すなわち感情調整スキルは、ご本人にとっても、そしてサポートする方にとっても、非常に重要な要素となります。このスキルは、困難な状況の中でも心の安定を保ち、しなやかに適応していくための「レジリエンス」を高める上で欠かせないものです。

この記事では、トラウマからの回復を支える感情調整スキルに焦点を当て、それがレジリエンスとどう結びつくのか、そして大切な人への具体的なサポート方法や、支援者ご自身のセルフケアとしての感情調整について、専門的な知見に基づいて分かりやすく解説します。

トラウマが感情に与える影響

トラウマ体験は、脳や神経系に深い影響を与え、感情の処理や調整機能を混乱させることがあります。これにより、以下のような感情に関する困難が生じやすくなります。

これらの感情の困難は、ご本人の日常生活や人間関係に大きな影響を及ぼしますが、これは決して本人の「わがまま」や「甘え」ではなく、トラウマによる脳機能や神経系の変化によるものであるという理解が大切です。

レジリエンスを高める感情調整スキルとは

レジリエンスとは、「逆境や困難に直面した際に、それに適応し、乗り越え、回復する力」を指します。感情調整スキルは、このレジリエンスを構成する重要な因子の一つと考えられています。

感情調整スキルが高いということは、感情を「抑え込む」ことではありません。それは、以下の能力を含む、より柔軟で適応的なプロセスです。

  1. 自身の感情に気づき、正確に識別する能力: 今、自分が何を感じているのか(例:不安、悲しみ、怒り、恥など)を認識できること。
  2. 感情を受け入れ、耐える能力: 不快な感情であっても、それを否定したり避けたりせず、一時的なものとして受け止めることができること。
  3. 感情の強度や持続時間を調整する能力: 感情に圧倒されることなく、その強度を和らげたり、長引きすぎないように調整したりできる具体的な方法(スキル)を使えること。
  4. 状況に応じて感情を適切に表現する能力: 感情を溜め込むのではなく、健全な方法で他者に伝えたり、自分自身で処理したりできること。
  5. ポジティブな感情を増やす、あるいは維持する能力: 楽しい、嬉しい、安心するといった感情を意識的に感じたり、その状態を維持したりできること。

これらのスキルが身についていると、トラウマによって引き起こされる強い感情の波に飲まれそうになったときでも、完全に沈んでしまうことなく、再び浮上し、前を向く力を保つことができます。

大切な人の感情の波に寄り添う具体的なサポート

トラウマを抱える大切な方が感情的な困難に直面しているとき、支援者としてできる具体的なサポート方法があります。最も重要なのは、安全で安心できる存在であることです。

支援者自身のセルフケア:ご自身の感情調整

大切な人をサポートする役割は、大きなエネルギーと感情的な負担を伴います。支援者がご自身の心身の健康を保つことは、結果としてより良いサポートを提供し続けるために不可欠です。支援者自身のセルフケアとしての感情調整も非常に重要です。

まとめ:感情調整は共に育む力

トラウマからの回復における感情調整スキルは、ご本人だけでなく、その回復を支える支援者にとっても不可欠な力です。感情の困難は回復の道のりにおいて自然な一部であり、それを乗り越えるためには、感情に気づき、受け止め、調整するスキルを少しずつ育んでいくことが重要です。

大切な人の感情の波に寄り添うことは容易なことではありません。しかし、共感的な姿勢で傾聴し、安全な環境を提供し、必要に応じて専門家との連携を促すことで、回復への一歩をサポートすることができます。同時に、支援者ご自身が自身の感情に意識を向け、セルフケアとして感情調整に取り組むことは、長く継続的にサポートを提供し続ける上で最も大切なことです。

感情調整スキルは、一度身につければ終わりというものではなく、練習によって磨かれていくものです。大切な方と共に、そしてご自身のためにも、感情と上手に付き合う力を育んでいくプロセスそのものが、レジリエンスを高め、より力強く歩んでいくための確かな一歩となるでしょう。