トラウマからの歩き方

困難の中で輝く大切な人の強みを見つける:レジリエンスを育むための寄り添い方と支援者の心のケア

Tags: トラウマ回復, レジリエンス, サポート, セルフケア, 強み

はじめに:困難の中に隠された「強み」の可能性

大切なご家族や身近な方がトラウマに苦しんでおられる状況に寄り添うことは、時に計り知れない精神的な負担を伴います。苦しむ姿を見ていると、その人が弱く、何もかも失ってしまったかのように感じられるかもしれません。どのように声をかけ、どのようにサポートすれば良いのか分からず、無力感や不安を感じることも少なくないでしょう。

しかし、トラウマという極めて困難な経験は、その人の一部を変容させてしまうことはあっても、その人そのものの価値や、内面に秘められた力を完全に奪い去るわけではありません。多くの場合、困難に直面した時だからこそ見えてくる、あるいは育まれる「強み」や「資質」が存在します。

この記事では、トラウマを抱える大切な人が持つ、見失いがちな「強み」や「資質」に焦点を当てます。そして、それを支援者である私たちがどのように見つけ、本人がその力に気づくよう促せるのか、その具体的なアプローチについて専門的な知見に基づいて解説します。また、他者の強みを見出すプロセスが、支援者自身の心のケアやレジリエンスにも繋がる可能性についても触れてまいります。

レジリエンスとは:困難をしなやかに乗り越える力

改めて、サイトのテーマでもある「レジリエンス」について確認しておきましょう。レジリエンスとは、単に困難から「立ち直る力」だけを指すのではなく、困難な状況に適応し、そこから回復し、さらには成長していく力を含みます。これは、特定の誰かだけが持っている特別な能力ではなく、誰もが内面に持っている可能性であり、様々な因子によって育むことができるものです。

レジリエンスを高める因子は多岐にわたりますが、その人の持つ「強み」や「資質」もまた、重要なレジリエンス因子の一つとして考えられます。困難な状況下でも、その人らしさを保ち、前向きな一歩を踏み出す原動力となり得るからです。

なぜ「強み」に焦点を当てることが重要なのか

トラウマからの回復プロセスでは、当然ながら苦痛や喪失感、困難に直面する側面に焦点を当てることが多くなります。これは回復のために必要なプロセスの一部です。しかし、同時にその人が持つ「強み」や「ポジティブな側面」にも意図的に焦点を当てることには、以下のような重要な意味があります。

  1. 希望を見出す助けとなる: 困難な状況にいる本人は、自分の価値や能力を見失い、絶望の中にいることがあります。「自分には何も良いところがない」「もう立ち直れない」と感じている時に、たとえ小さくても自分の強みや資質に気づくことは、閉ざされた心に一筋の光を灯すことになります。
  2. 自己肯定感の向上: トラウマは自己肯定感を著しく低下させることがあります。他者からの肯定的なフィードバックや、自分自身の中に変わらず存在する(あるいは育まれた)力に気づくことは、自己肯定感を回復させる重要なステップです。
  3. 回復への主体性を育む: 自分の強みやリソースに気づくことは、「自分にも状況を変える力があるかもしれない」という感覚(自己効力感)に繋がり、回復に向けて主体的に行動する意欲を高めます。
  4. 関係性の質の向上: 支援者が相手の「弱さ」や「問題」だけでなく、「強み」や「可能性」にも目を向けることで、より対等で、肯定的な関係性を築きやすくなります。

大切な人の「強み」「資質」を見つける視点と手がかり

では、具体的にどのようにして、大切な人の「強み」や「資質」を見出していくことができるでしょうか。苦しみの中にいると、本人も周囲も、そのポジティブな側面に気づきにくくなっている可能性があります。以下の視点を参考に、注意深く観察し、対話の中で探ってみてください。

これらの視点は、外から観察するだけでなく、適切なタイミングで対話を通じて本人に尋ねてみることも有効です。

大切な人に「強み」の気づきを促す具体的なアプローチ

「強み」は、ただ見つけるだけでなく、本人がそれに気づき、自身の力として認識できるよう促すことが重要です。

  1. 具体的な言動に対する肯定的なフィードバック: 「〇〇さんが、△△という状況でも、落ち着いて□□と対応した姿を見て、私は冷静で対応力がある人だと感じました」のように、抽象的な褒め言葉ではなく、具体的な行動や状況に紐づけて伝えることで、相手は自分の何が「強み」なのかを理解しやすくなります。
  2. 過去の成功体験や乗り越えた経験について尋ねる: 「そういえば、以前〇〇という大変なことも乗り越えていたことがあったよね。あの時、どうやって乗り越えられたの?」のように、過去のリソースに焦点を当てる質問を投げかけることで、本人が自身のレジリエンスを再認識するきっかけになります。
  3. 困難な状況で「できたこと」に焦点を当てる: 完璧な状態を目指すのではなく、困難の中でも「これだけはできた」「これは維持できた」という小さな「できたこと」に注目し、それを承認します(例:「今日はベッドから起き上がって、顔を洗うことができたんだね。それだけでも素晴らしいことだと思うよ」)。
  4. ストレングスに関するツールや概念を紹介する(専門家コラムとして): 興味があるようであれば、VIA-IS(Values in Action Inventory of Strengths)のような性格の強みを分類したツールや、ポジティブ心理学における強みの概念などについて、専門家の視点から分かりやすく説明した情報を共有することも、本人の自己理解を深める助けとなるかもしれません。
  5. 共に未来の可能性について語る: 本人が少し前向きになれる兆しが見えたら、その人の強みを活かして「将来どんなことができると思う?」「どんなことに興味がある?」など、未来の可能性について共に探求する対話は、希望を見出す力となります。

支援者のセルフケア:「他者の強み」が自分に与えるもの

大切な人の強みを見つけ、回復をサポートすることは、支援者自身の心にも良い影響を与える可能性があります。他者のポジティブな側面に焦点を当てることは、自身の視点を広げ、希望や可能性に対する感受性を高めることにも繋がるからです。

しかし、最も重要なのは、支援者自身が燃え尽きたり、共倒れしたりしないためのセルフケアです。

まとめ:共に、希望の光を見出すために

トラウマからの回復は、決して直線的な道のりではありません。困難に直面し、後退するように見える時期もあるかもしれません。しかし、その人の内には、たとえ今は霞んで見えていても、確かに存在する「強み」や「資質」があります。

支援者として私たちができることは、その苦しみに寄り添い、共感的な理解を示すと共に、意図的にその人のポジティブな側面や隠された力にも目を向けることです。そして、それを具体的な言葉で伝え、本人が自身のレジリエンスの源泉に気づくよう優しく促すことです。このプロセスは、本人に希望の光をもたらすだけでなく、サポートする私たち自身の心にも、回復と成長の可能性を示してくれるはずです。

困難の中でも、共に希望を見出し、レジリエンスというしなやかな力を育んでいく。その歩みを、一つずつ大切に進んでまいりましょう。必要であれば、専門機関のサポートも活用しながら、ご自身と大切な人の心を守り、回復への道を共に歩んでいくことを願っています。