レジリエンスの源泉「内なる強さ」を育む：トラウマからの回復を支える具体的なサポートと支援者のセルフケア
大切なご家族や身近な方がトラウマに苦しんでいらっしゃるのを見るのは、非常に辛いことです。どのように寄り添い、支えれば良いのか分からず、不安や戸惑いを感じていらっしゃるかもしれません。また、支援する側として、ご自身の精神的な負担も感じていらっしゃるのではないでしょうか。
この状況の中で、「大切な人に、回復に向けて立ち上がる『内なる強さ』があるのだろうか」「どのようにすれば、その強さを引き出すサポートができるのだろうか」と疑問に思われることがあるかもしれません。
この記事では、トラウマからの回復に不可欠なレジリエンスの源泉とも言える「内なる強さ」とは何か、そしてその「内なる強さ」を大切な人の中に見出し、育むための具体的なサポート方法について、信頼できる専門的知見に基づいて解説いたします。また、支援者としてご自身が心身の健康を保つためのセルフケアの重要性とその方法についても触れていきます。
トラウマからの回復における「内なる強さ」とは何か
トラウマは、人の心と体に深い傷を残し、それまで当たり前だと思っていた安全感や世界の捉え方を大きく揺るがします。その結果、自信を失ったり、無力感に囚われたりすることがあります。しかし、そのような困難な状況の中でも、人は回復し、再び力強く生きていくための可能性を秘めています。この可能性を支える力の一つが「内なる強さ」です。
「内なる強さ」とは、困難に直面してもそれに適応し、乗り越え、成長していくための、その人がもともと持っている、あるいは育むことができる様々な心理的な要素や能力を指します。心理学では、この「困難に対応する力」をレジリエンス（resilience）と呼びます。
「内なる強さ」は、自己肯定感、自己効力感（自分には物事をやり遂げる力があるという感覚）、希望を持つ力、問題解決能力、柔軟な思考力、感情を調整する力、他者との繋がりを求める力など、多岐にわたる因子によって構成されます。トラウマを経験すると、これらの内なる強さが一時的に覆い隠されてしまったり、機能しにくくなったりすることがありますが、失われるわけではありません。適切なサポートと時間があれば、再び見出され、育まれるものなのです。
大切な人の「内なる強さ」を見出し、引き出すための具体的なサポート
大切な人の「内なる強さ」は、何か特別な能力というよりも、その人の中に眠っている回復へのエネルギーや、困難を乗り越えようとする小さな力です。支援者は、それを探し出し、育むための環境を整える役割を担うことができます。
1. 安全で受容的な環境を提供する
何よりも大切なのは、物理的および精神的に安全で、その人が安心して感情を表現できる環境を整えることです。批判や否定をせず、「ここではあなたが安全である」というメッセージを、言葉だけでなく態度でも伝えます。
2. 傾聴と共感
大切な人の話を、ただ「聞く」のではなく、その人の内面や感情に寄り添いながら「聴く」（傾聴する）姿勢が重要です。話を急かしたり、アドバイスを押し付けたりするのではなく、ただ存在を共にし、共感を示します。「つらかったですね」「大変でしたね」といった、感情に寄り添うシンプルな言葉かけが、相手の孤立感を和らげます。
3. 過去の経験や得意なことに目を向ける
トラウマによって自信を失っている場合でも、その人が過去に何らかの困難を乗り越えた経験や、小さなことでも得意だと感じていること、好きで打ち込めることがあるはずです。そうしたポジティブな側面に光を当て、「〇〇ができたのはすごいことだね」「〇〇について話している時のあなたは輝いているね」といった言葉で伝えます。これは、その人自身が持つ力を再認識する手助けとなります。
4. 本人の意思とペースを尊重する
回復の道のりは一人ひとり異なります。支援者が良かれと思って提供するサポートも、本人の準備ができていなければ負担になることがあります。常に本人の意思やペースを尊重し、無理強いは決してしません。「何かできることはある？」「今はどんな気分？」など、本人に選択肢を与え、コントロール感を取り戻してもらうことが重要です。
5. 小さな目標設定とその達成をサポートする
トラウマからの回復は、大きな目標を一気に達成するものではありません。日常生活の中で、「朝起きたら顔を洗う」「一杯の水を飲む」「近所を少し散歩する」など、達成可能な小さな目標を設定し、それが達成できた時に共に喜び合うことが有効です。小さな成功体験の積み重ねは、自己効力感を育み、内なる強さを再構築する重要なステップとなります。
6. 希望を見出すサポート
絶望感に囚われている時には、未来に希望を持つことが難しいものです。支援者は、回復の可能性を示唆したり、専門家の存在を伝えたりすることで、かすかな希望の光を届けることができます。ただし、根拠のない楽観主義を押し付けるのではなく、「ゆっくりでも、一歩ずつ進むことはできる」「一人ではない」といった、現実的で温かいメッセージを伝えることが大切です。
支援者のためのセルフケア：大切な人を支え続けるために
大切な人のトラウマと向き合い、回復をサポートすることは、支援者にとっても精神的、肉体的に大きな負担となります。ご自身が心身ともに健康でなければ、継続的なサポートは難しくなります。共倒れを防ぎ、効果的なサポートを続けるためには、支援者自身のセルフケアが不可欠です。
1. 境界線を明確にする
どこまでサポートできるか、何は専門家に任せるべきか、自分自身の限界を認識し、適切な境界線を設定することが重要です。全てを一人で抱え込もうとせず、「これは私の役割ではない」と判断する勇気も必要です。境界線を設けることは、相手を突き放すことではなく、健全な関係性を保つために必要な自己保護の手段です。
2. 休息とリフレッシュの時間を確保する
サポートに時間とエネルギーを費やす中で、ご自身の休息や好きなことをする時間を意識的に確保してください。趣味に没頭したり、友人や家族と過ごしたり、自然の中でリラックスしたりすることは、心のエネルギーを充電するために非常に重要です。罪悪感を感じることなく、ご自身の心身を労わってください。
3. 自身の感情に気づき、受け止める
大切な人の苦しみや感情に寄り添う中で、支援者自身も様々な感情（悲しみ、怒り、無力感、疲労など）を経験します。これらの感情に気づき、良い悪いと判断せずにそのまま受け止める練習をします。感情を抑え込まず、安全な場所で表現したり、書き出したりすることも有効です。
4. 信頼できる人に相談する
一人で抱え込まず、信頼できる友人、家族、または専門家（カウンセラーなど）に自分の気持ちや経験を話すことが非常に重要です。話すことで感情が整理され、新たな視点が得られることがあります。守秘義務のある専門家への相談は、特に有効な選択肢となります。
5. 専門機関のサポートを検討する
大切な人の回復のためだけでなく、支援者自身も、必要に応じて専門機関（精神科医、臨床心理士、ソーシャルワーカーなど）のサポートを利用することを検討してください。専門家は、トラウマに関する知識だけでなく、支援者の負担軽減やセルフケアについても適切なアドバイスを提供してくれます。
まとめ
トラウマからの回復は、時に長く、困難な道のりに感じられるかもしれません。しかし、大切な人の中には、回復へと向かうための「内なる強さ」が必ず存在します。支援者は、その強さを信じ、安全な環境の中で寄り添い、小さなポジティブな側面に光を当てることで、その「内なる強さ」を見出し、育むサポートを行うことができます。
そして、その道のりを共に歩むためには、支援者自身が心身ともに健康であることが不可欠です。ご自身のセルフケアを怠らず、境界線を設定し、必要であれば他者や専門家のサポートを借りながら、ご自身の内なる強さも大切にしてください。
あなたは一人ではありません。希望を失わず、一歩ずつ、共に歩んでいくことができます。