トラウマからの歩き方

大切な人へのサポートで「失敗したかも」と感じた時:リカバリーとレジリエンスを育む関わり方

Tags: トラウマサポート, セルフケア, レジリエンス, 支援者の心構え, リカバリー, コミュニケーション

はじめに:サポートの難しさと「失敗」への不安

大切なご家族など、身近な方がトラウマに苦しんでいらっしゃる時、その方を支えたいという強い思いから様々なサポートを試みられていることと存じます。しかし、トラウマからの回復の道のりは複雑であり、予期せぬ反応や状況に直面することも少なくありません。時には、ご自身の言動が相手を傷つけてしまったのではないか、適切ではなかったのではないかと、「失敗したかもしれない」と感じ、不安や罪悪感を抱くことがあるかもしれません。

サポートする側の方々がこのような感情を抱くことは、決して珍しいことではありません。完璧なサポートなど存在しないからです。本記事では、大切な人へのサポートにおいて「失敗したかも」と感じた時に、どのようにその状況を捉え、乗り越え、そしてサポートを続けるためのレジリエンス(精神的な回復力やしなやかさ)を育んでいくかについて、具体的な視点とセルフケアの方法を解説いたします。

なぜ「失敗したかも」と感じるのか:背景にあるもの

サポートの過程で「失敗したかも」と感じてしまう背景には、いくつかの要因が考えられます。

まず、トラウマの性質そのものが複雑であるためです。トラウマは個々の経験やその後の状況によって多様な影響を及ぼします。回復プロセスも一律ではなく、時には予測不能な反応や感情の波が現れることがあります。これに対し、良かれと思って行った言動が、意図せず相手のトリガー(トラウマを思い出させる刺激)に触れてしまったり、期待した反応と異なったりすることがあります。

次に、コミュニケーションの難しさも挙げられます。トラウマを抱える方は、感情表現が困難になったり、特定の話題に対して過敏になったりすることがあります。支援者としては、相手の気持ちを尊重しようと努力しても、言葉の選び方やタイミングが難しく感じられることがあります。

また、支援する側が抱えるプレッシャーも無視できません。「自分がしっかり支えなければ」という責任感や、「もし悪化させてしまったら」という恐れが強いほど、予期せぬ状況を「失敗」と捉えやすくなります。

「失敗」をリカバリーする考え方:完璧を目指さない

サポートの過程で「失敗したかも」と感じた時、最も大切なのは、ご自身を過度に責めないことです。サポートは、単線的な成功や失敗で測れるものではありません。大切な人との関係性の中で起こる、多くの試行錯誤を含むプロセスです。

  1. 完璧を目指さないことの重要性: 誰しも間違いを犯す可能性があり、特に感情的・精神的に繊細な状況下でのコミュニケーションは難しいものです。ご自身に非の打ち所のない完璧さを求めないことが、継続的なサポートのためには不可欠です。
  2. 「失敗」から学ぶ視点: その出来事を「失敗」と断じるのではなく、「今回の関わり方から何を学べるだろうか」という視点を持つことが助けになります。例えば、特定の話題への反応や、特定の声かけの効果など、次回以降の関わり方のヒントとして捉え直すことができます。
  3. 関係性の修復と謝罪の可能性: もし、ご自身の言動によって相手を傷つけてしまった可能性が高いと感じる場合、誠実に関係性を修復しようと試みることは有効です。必要であれば、相手に配慮した形で謝罪の気持ちを伝えることも、関係性の維持や再構築につながることがあります。ただし、相手の受け止め方や状況によっては、すぐに謝罪することが適切でない場合もあります。専門家など第三者に相談しながら慎重に判断することが望ましいでしょう。
  4. 意図と結果の乖離を理解する: ご自身の意図は相手のためを思ってのものであっても、それが相手にどのように伝わり、どのような結果を生んだかは異なります。ご自身の善意ある意図を認めつつ、結果として生じた影響を冷静に分析することが、感情的な自己非難に陥らないために役立ちます。

レジリエンスを育む関わり方への接続

サポート過程での「失敗」や困難から立ち直り、再び前向きに関わり続ける力こそが、支援者としてのレジリエンスです。この経験を乗り越える過程は、ご自身のレジリエンス因子を育む機会でもあります。

支援者自身のセルフケア:「失敗」経験からの回復

サポート中の「失敗かも」という経験は、支援者自身の心にも大きな負担を与えます。自己非難や罪悪感、無力感は、継続的なサポートを困難にする可能性があります。こうした感情から回復し、ご自身のレジリエンスを維持・向上させるためには、意識的なセルフケアが不可欠です。

  1. 感情を認める・処理する: 「失敗した」と感じて抱いた不安や罪悪感、悲しみなどの感情をまずは否定せず認めましょう。信頼できる友人や家族に話を聞いてもらったり、ジャーナリング(書くこと)を通じて感情を整理したりすることが有効です。
  2. 信頼できる人に相談する: サポートの経験やそれに伴う感情について、同じような経験を持つ仲間や、共感的に耳を傾けてくれる人に話すことで、孤独感を軽減し、新たな視点を得ることができます。
  3. 自分自身の限界を知り、境界線を再確認する: サポートに全力投球するあまり、ご自身の心身の限界を超えてしまうことがあります。「失敗」経験は、ご自身のキャパシティや、相手との間に適切な境界線を引けているかを見直す機会ともなり得ます。全てを一人で抱え込まず、任せられることは専門家に委ねる勇気も必要です。
  4. 休息を取る: 心理的な負担を感じている時は、意識的に休息を取り、心身を休ませることが重要です。趣味の時間を持つ、リラクゼーションを取り入れるなど、ご自身を労わる時間を作りましょう。

専門家のサポートを活用する

もし、「失敗したかも」という思いが強く、ご自身だけで対処するのが難しいと感じる場合や、具体的な関わり方に迷いが生じた場合は、専門機関(医療機関、カウンセリング施設など)や支援団体に相談することを強くお勧めします。専門家は、トラウマやレジリエンスに関する深い知識と経験を持っており、具体的なアドバイスやサポートを提供してくれます。また、支援者自身の心のケアについても、専門的な立場からサポートを受けることができます。一人で抱え込まず、外部のリソースを積極的に活用することが、大切な人の回復にとっても、ご自身の心身の健康にとっても重要です。

まとめ:共に歩む道のりの中で

大切な人のトラウマからの回復をサポートする道のりは、決して平坦ではありません。予期せぬ困難や、「失敗したかも」と感じる出来事に直面することもあるでしょう。しかし、そうした経験を乗り越えようとすること自体が、ご自身のレジリエンスを育む貴重な機会となります。

完璧なサポートなど存在しません。大切なのは、困難な状況の中でも、学び、調整し、そしてご自身を大切にしながら、歩みを止めないことです。「失敗」を恐れすぎず、柔軟な心で関わり続け、必要であれば外部の力を借りる。その姿勢こそが、大切な人との回復の道のりを共に歩む上で、そしてご自身のレジリエンスを高める上で、大きな力となることと信じております。