大切な人のトラウマ反応(フラッシュバックや解離)への具体的な寄り添い方:レジリエンスを育むコミュニケーションと支援者が心を守る方法
トラウマ反応への寄り添い方:大切な人を支え、レジリエンスを育むために
大切なご家族やご友人がトラウマによる困難を抱えているとき、その方を支えたいと強く願う一方で、どのように接すれば良いのか、特にフラッシュバックや解離といった強いトラウマ反応が現れた際に、どのように寄り添えば良いのか戸惑われることがあるかもしれません。不適切な対応をしてしまうのではないか、という不安を感じることもあるでしょう。
ここでは、トラウマ反応への具体的な寄り添い方と、回復への力であるレジリエンスをどのように育むか、そして支援される側としてご自身の心を守るためのセルフケアについて、専門的な知見に基づきお伝えいたします。
トラウマ反応(フラッシュバック・解離など)を理解する
トラウマ反応とは、過去の強いストレス体験が原因となり、現在においても心身に様々な影響が現れる現象です。フラッシュバックや解離は、代表的なトラウマ反応の一つとして知られています。
- フラッシュバック: 過去のトラウマ体験が、まるで今現在起きているかのように鮮明に思い出されたり、体験時の感覚や感情が突然蘇ったりする現象です。視覚、聴覚、身体感覚など、様々な形で現れることがあります。これは、脳が過去の危険を「今ここ」で回避しようとする防衛的な反応であると考えられています。
- 解離: 現実感の喪失(自分が自分ではないように感じる、周囲が非現実的に見える)、記憶の断片化、感情の麻痺、周囲からの切り離され感などが含まれます。強い苦痛や圧倒的な体験から心を守るために、一時的に意識や感覚を切り離す自己防衛のメカニズムと理解されています。
これらの反応は、本人の意思や努力でコントロールできるものではなく、トラウマによって変化した脳や神経系の働きによるものです。これらの反応を正しく理解することは、支援する上で非常に重要です。
トラウマ反応が起きている時の具体的な寄り添い方
トラウマ反応が現れている最中の大切な人への寄り添い方は、回復を支え、二次的な苦痛を防ぐために大切です。以下の点を意識して関わってみましょう。
- 安全の確保を最優先にする 物理的、精神的に安全な場所であることを確認します。周囲に危険なものがないか、落ち着ける環境かを確認します。
- 落ち着いたトーンで話しかける 大きな声や早口は避け、穏やかで落ち着いたトーンでゆっくりと話しかけます。「大丈夫だよ」「私はここにいます」など、安心を伝える短い言葉を選ぶことが有効な場合があります。
- 「今ここ」に戻るためのサポートを促す
本人がフラッシュバックなどで過去に戻っているような状態の場合、優しく現実世界へと意識を戻す手助けをします。具体的な方法として「グラウンディング」を促すことが有効です。
- グラウンディングの例:
- 「今、足の裏が床についているのを感じられますか?」
- 「周りに見えるものを5つ教えてもらえますか?」
- 「聞こえる音を3つ教えてもらえますか?」
- 「手に触れるものの感触はどんな感じですか?」 ただし、無理強いはせず、本人が可能な範囲で行えるように優しく提案することが大切です。
- グラウンディングの例:
- 無理に話させたり、評価したりしない 反応の内容について根掘り葉掘り聞いたり、「気にしすぎだ」「早く忘れた方がいい」といった評価や助言をしたりすることは避けます。ただそばにいて、本人のペースに寄り添う姿勢が大切です。
- 本人の自己決定を尊重する 本人が「一人になりたい」「静かにしてほしい」といった意思表示をした場合は、その希望を尊重します。そばにいる場合でも、一定の距離感を保つことが必要なこともあります。
最も重要なのは、あなたが安全で信頼できる存在であることを態度で示すことです。言葉だけでなく、穏やかな表情や落ち着いた佇まいも大切なメッセージとなります。
レジリエンスを育む関わり方
トラウマ反応への適切な寄り添いは、本人が自身の内にあるレジリエンス(困難に適応し回復する力)に再びアクセスするための手助けとなります。安全な場で反応を経験し、周囲からの温かいサポートを受けることは、孤立感や無力感を軽減し、「自分は一人ではない」「困難を乗り越えることができるかもしれない」という感覚を取り戻すきっかけとなり得ます。
また、トラウマ反応が現れていない落ち着いた時には、本人の強みや、過去に困難を乗り越えた経験、小さな成功体験に焦点を当てることもレジリエンスを高める上で有効です。ポジティブな側面を共有し、自己肯定感を育むような穏やかなコミュニケーションを心がけましょう。
支援者自身のセルフケアの重要性
大切な人のトラウマ反応に寄り添うことは、支援者にとって精神的に大きな負担となる可能性があります。共感疲労(相手の苦痛に寄り添うことで自身も疲弊すること)や燃え尽き(バーンアウト)を防ぐためには、支援者自身のセルフケアが不可欠です。
- 自身の感情を認識する 寄り添う中で感じる様々な感情(不安、恐れ、無力感、怒りなど)に気づき、その感情があることを認めます。感情に良い悪いはありません。
- 感情の安全な処理方法を見つける 信頼できる友人や家族に話を聞いてもらう、ジャーナリング(書き出し)、趣味やリラクゼーションなど、自身に合った方法で感情を表現し、処理する時間を持つことが大切です。
- 適切な境界線を設定する 相手の感情と自分の感情を区別する、物理的・時間的な休息を確保する、全てを一人で背負い込まない、といった境界線の設定は、支援を持続させるために非常に重要です。
- 専門家からのサポートを受ける ご自身も心理的な負担を感じている場合や、適切な対応に迷う場合は、カウンセリングや相談機関を利用することを検討しましょう。支援者がサポートを受けることは、決して弱いことではなく、より適切に、そして持続的に大切な人を支えるために賢明な選択です。
専門機関との連携を検討する
トラウマからの回復は一人で行うのが非常に困難なプロセスです。トラウマ反応が頻繁に起こる場合や、本人の苦痛が大きい場合は、精神科医やトラウマ専門のカウンセラーといった専門家のサポートが不可欠です。
支援者として、専門機関に関する情報を提供したり、受診や相談を促したりすることも重要なサポートの一つです。また、専門家から支援者自身がアドバイスを受けることも、対応に迷った際に役立ちます。
まとめ:希望を持って、共に歩むために
トラウマ反応への寄り添いは、時に困難と向き合うことでもあります。しかし、トラウマ反応が「異常な状況に対する正常な反応」であることを理解し、安全を確保した上で、落ち着いて、非判断的に寄り添うことは、本人が安心感を取り戻し、内なるレジリエンスを発揮していくための重要な一歩となります。
そして、この道のりを共に歩む支援者自身の心身の健康も同様に大切です。適切なセルフケアを行い、必要であれば外部のサポートも利用しながら、ご自身を大切にしてください。
トラウマからの回復は一本道ではなく、波があり、時間がかかるプロセスです。しかし、適切な理解とサポート、そして希望を持つことで、必ず回復への道は開かれていきます。この情報が、大切な人への寄り添い方、そしてご自身の心を守るための一助となれば幸いです。