トラウマからの回復を支える自己肯定感と自己効力感:レジリエンスを高め、大切な人へのサポートと支援者のセルフケアにつなげるには
大切なご家族や身近な方がトラウマによる困難を抱えているとき、どのように支え、回復への道のりを共に歩めば良いのか、戸惑いや不安を感じることは自然なことです。また、支援する側として、ご自身の心身の負担も少なくないかもしれません。この記事では、トラウマからの回復において非常に重要な要素である「自己肯定感」と「自己効力感」に焦点を当て、これらがどのようにレジリエンス、つまり困難から立ち直る力に繋がり、大切な方へのサポートや支援者自身のケアに役立つのかについて、専門的な知見に基づいて分かりやすく解説します。
トラウマが自己肯定感と自己効力感に与える影響
トラウマ体験は、その人の安全な世界観を大きく揺るがし、「自分は無力だ」「自分には価値がない」といった否定的な自己認識を生み出すことがあります。これは、自己肯定感(ありのままの自分を受け入れ、価値を認められる感覚)や自己効力感(目標を達成するために必要な行動を実行できるという自信)を著しく低下させてしまうためです。
トラウマによってこれらの感覚が損なわれると、人は自分の力で状況を変えることが難しいと感じたり、新しい一歩を踏み出すことに強い抵抗を感じたりするようになります。これは、回復への道のりを阻む大きな壁となり得ます。
レジリエンスと自己肯定感・自己効力感の関係
レジリエンスとは、人生における困難や逆境に直面した際に、それに適応し、乗り越えていく力のことです。このレジリエンスを構成する多くの因子の中でも、自己肯定感と自己効力感は特に重要な心理的側面として位置づけられています。
自己肯定感が高い人は、困難な状況にあっても「自分なら大丈夫かもしれない」「価値のある自分だからこそ、この状況を乗り越える力を持っているはずだ」と、自分自身を信じやすくなります。また、自己効力感が高い人は、「どうすればこの状況を改善できるだろうか」「自分にはできることがあるはずだ」と考え、問題解決に向けて具体的な行動を起こしやすくなります。
つまり、自己肯定感と自己効力感は、トラウマによる傷つきから立ち直り、再び前を向いて歩き出すための内的なエンジンとなるのです。これらを育むことは、レジリエンスを高め、回復を促進するために不可欠であると言えます。
大切な人の自己肯定感・自己効力感を育むためのサポート
大切な人がトラウマによって自己肯定感や自己効力感を失っている場合、支援者としてできることがあります。直接的に「自信を持ちなさい」と言うのではなく、以下のような具体的なアプローチを通して、これらの感覚を少しずつ育んでいく手助けができます。
- 安全で安心できる環境を提供する: まず何よりも、安心して感情を表したり、自分のペースで過ごしたりできる環境が不可欠です。これは、物理的な安全性だけでなく、心理的な安全性も含まれます。批判せず、ありのままを受け入れる姿勢を示してください。
- 傾聴と共感的なコミュニケーション: 相手の話をじっくりと耳を傾け、感情に寄り添う姿勢が重要です。「つらかったですね」「大変だったのですね」といった共感的な言葉は、相手が孤立無援ではないと感じる手助けになります。アドバイスをするよりも、まずは理解しようと努めることが大切です。
- 小さな肯定的な側面に焦点を当てる: トラウマ体験は、自己の否定的な側面に目を向けさせがちです。意図的に、相手の「できたこと」「努力したこと」「持っている強み」といった小さな肯定的な側面に焦点を当て、具体的に言葉にして伝えてみてください。例えば、「今日は朝起きられてすごいね」「辛いのに、ここまでよく頑張ったね」など、具体的な行動や努力を認め、伝えることが有効です。
- 達成可能な小さな目標設定をサポートする: 自己効力感は、「できた」という成功体験によって育まれます。回復の初期段階では、非常に小さな、達成可能な目標を設定し、それをクリアしていく経験を積むことが大切です。例えば、「今日は5分だけ散歩してみる」「美味しいお茶を一杯淹れてみる」といった、一見些細に思えることでも構いません。目標設定から達成までを、焦らず、相手のペースに合わせてサポートしてください。
- 専門家のサポートを検討する: 自己肯定感や自己効力感の回復には、専門家によるアプローチが非常に効果的な場合があります。必要に応じて、医療機関やカウンセリング施設などの専門機関に相談することを検討し、情報提供を行うことも重要なサポートの一つです。
支援者自身の自己肯定感・自己効力感を守り育む
大切な人をサポートする過程で、支援者自身もまた、無力感を感じたり、自分のサポートが十分ではないと自己否定的な気持ちになったりすることがあります。支援者が心身ともに健康でいることは、質の高いサポートを継続するためにも、ご自身の生活を守るためにも不可欠です。
- 自分自身を責めない: 大切な人の状況に対して、「自分のせいではないか」「もっと何かできたはずだ」とご自身を責める必要はありません。あなたは最善を尽くしています。ご自身の努力や、相手のために心を砕いていること自体を認め、ねぎらってください。
- 完璧を目指さない: 支援者として全ての問題を解決しなければならない、常にポジティブでなければならない、といった完璧主義的な考えを手放しましょう。あなたができることには限界があります。その限界を受け入れ、自分自身のケアを優先する勇気を持つことも大切です。
- 休息を十分に取る: 心身の疲れは、自己肯定感や自己効力感を低下させます。意識的に休息の時間を設け、趣味やリラクゼーションなど、ご自身が心から安らげる活動を取り入れてください。
- 自分の「できたこと」を記録する: サポートの過程で、困難なことばかりに目が行きがちですが、小さな成功体験は支援者自身にとっても自己効力感を高めます。「今日は相手の話をじっくり聞けた」「少しの間でも自分の時間を持てた」など、ご自身の「できたこと」を記録してみましょう。
- 他の支援者や相談機関に頼る: 一人で抱え込まず、同じような経験をしている方と話したり、専門家(カウンセラーや医師など)に相談したりすることも非常に有効です。ご自身の感情や負担について話すことで、気持ちが整理され、新たな視点を得ることができます。これは、自己肯定感を保ち、支援を続けるための重要なセルフケアです。
まとめ
トラウマからの回復の道のりは一様ではなく、時間もかかるプロセスです。その中で、自己肯定感と自己効力感は、トラウマによる傷つきを乗り越え、レジリエンスを発揮するために不可欠な心の力となります。大切な人のこれらの感覚を育むためには、安全な環境を提供し、共感的に寄り添い、小さな肯定的な変化を認め、達成可能な目標へのサポートを行うことが有効です。そして何より、支援者自身がご自身の自己肯定感と自己効力感を守り、適切なセルフケアを行うことが、長期的なサポートを続ける上で最も重要です。ご自身を大切にしながら、専門家や利用可能なリソースも活用しつつ、共に回復への一歩を歩んでいきましょう。希望は必ず見出せます。