トラウマからの回復を支える「具体的な行動」の実践:レジリエンスを育み、支援者も取り組むセルフケア
トラウマからの回復への道のりは、ご本人にとっても、そして支える大切なご家族やご友人(支援者)にとっても、時に見通しが立ちにくく、困難に感じられることがあるかもしれません。どのように声をかけたら良いのか、適切なサポートができているのか、分からずに不安を感じている方もいらっしゃるでしょう。また、支える側として、ご自身の心身の負担を感じている方も少なくないと思われます。
この記事では、トラウマからの回復において「具体的な行動」がどのようにレジリエンスを高める力となるのか、そして支援者として大切な人の行動をどう支え、ご自身のセルフケアとして行動をどう取り入れていくかについて、信頼できる情報に基づいてお伝えいたします。
トラウマからの回復における「具体的な行動」の力
トラウマを経験すると、心身に様々な影響が現れることがあります。無力感や絶望感から何もする気力が起きなくなったり、過去の出来事に囚われてしまい、今この瞬間に意識を向けたり、未来に向けて何かを計画したりすることが難しくなる場合があります。活動性が低下し、閉じこもりがちになることも珍しくありません。
このような状況において、「具体的な行動」は回復の重要な鍵となり得ます。これは、気分が良くなるのを待ってから行動するのではなく、たとえ気分が乗らなくても、小さな行動を起こすことで心身の状態にポジティブな変化を生み出そうとするアプローチです。心理学では「行動活性化」と呼ばれる考え方にも通じます。
能動的に行動することは、失われがちだった自己効力感(自分には何かを成し遂げる力があるという感覚)や、自身の人生に対するコントロール感を取り戻す手助けとなります。そして、こうした感覚の回復は、困難な状況から立ち直る力である「レジリエンス」を高めることにつながります。行動を通じて成功体験を積み重ねることで、自信が生まれ、新たな課題に取り組む意欲も湧いてくるのです。
回復を支える「具体的な行動」の実践例
トラウマからの回復を支える具体的な行動には、様々なものがあります。大切な人がご自身のペースで取り組めるよう、ヒントとして参考にしてみてください。
- 日常生活の再構築: 規則的な睡眠、バランスの取れた食事、身だしなみを整えるといった基本的な生活習慣を確立することは、心身の安定につながる土台となります。
- 小さな目標設定と達成: 「今日は少しだけ散歩をする」「部屋のここだけ片付ける」「5分だけ好きな音楽を聴く」など、達成可能な小さな目標を設定し、実行する経験を積み重ねます。
- ポジティブな経験の意図的な取り入れ: 意識的に喜びや安らぎを感じられる活動(趣味の時間、自然と触れ合う、動物と触れ合うなど)を取り入れます。
- 社会的なつながりの維持・再構築: 信頼できる友人や家族と連絡を取る、支援グループに参加するなど、孤立を防ぎ、人とのつながりを感じられる行動を取ります。
- 身体を動かす: 軽い運動、ストレッチ、ヨガなどは、心身の緊張を和らげ、リフレッシュ効果が期待できます。
- 専門家のサポートを求める: 医療機関やカウンセリング施設、支援団体に相談の連絡を入れることも、自らの回復に向けた非常に重要な「行動」です。
これらの行動は、どれも劇的な変化をもたらすものではないかもしれません。しかし、日々の生活の中で小さな行動を積み重ねることで、少しずつでも前向きな変化を生み出す力となります。
支援者として、大切な人の「具体的な行動」をどう支えるか
大切な人が回復に向けて具体的な行動を始めることは素晴らしいことですが、それは決して簡単なことではありません。支援者として、どのように寄り添い、後押しできるでしょうか。
最も大切なのは、行動を「無理強い」したり「急がせたり」しないことです。回復には個人のペースがあり、波があることを理解し、忍耐強く見守る姿勢が求められます。
- 共に探す姿勢: 「何をしたら少し心が休まるかな?」「どんなことならできそうかな?」と、問いかけながら本人と一緒にできそうな行動を探します。支援者が一方的に「これをしたら良いよ」と提案するのではなく、本人の意思や興味を尊重することが重要です。
- 小さな変化への肯定的なフィードバック: 目標の達成度だけでなく、行動しようとしたプロセスや、その中で感じた小さな変化に気づき、「少しだけ外出できたんだね」「音楽を聴いて少しリラックスできたみたいだね」のように、具体的かつ肯定的な言葉で伝えます。これは、本人の自己肯定感を育む手助けになります。
- 行動のハードルを下げる提案: 例えば散歩なら、「長い時間歩く必要はないよ、まずは玄関に出てみるだけでも大丈夫」「家の周りを一周するだけでも十分だよ」のように、行動の敷居を下げる具体的な方法を一緒に考えます。
- 共に行動する: もし可能であれば、安全な範囲で行動を共にすることも有効です。一緒に散歩に行く、一緒に簡単な作業をするなど、寄り添う存在があることで、一歩を踏み出しやすくなることがあります。
- 専門家との連携を促す: 行動を起こすことが非常に難しい場合や、専門的なサポートが必要だと感じられる場合は、専門機関への相談や受診を優しく促し、情報提供や受診の付き添いなどのサポートを検討します。
支援者自身の「具体的な行動」によるセルフケア
大切な人を支えることは、計り知れないほどのエネルギーを要します。支援者自身が心身の健康を損なってしまっては、持続的なサポートは難しくなります。ご自身のセルフケアは、エゴイスティックな行為ではなく、むしろ大切な人を支え続けるために不可欠な「具体的な行動」なのです。
「考えすぎてしまう」「不安で動けなくなる」といった状況から抜け出すために、「具体的な行動」によるセルフケアを意識的に取り入れてみましょう。
- 休息を確保する行動: 意図的に休憩時間をスケジュールに組み込む、寝る時間を守るなど、物理的に休息を取るための具体的な行動を実践します。
- 物理的な距離を取る行動: 一人の時間を持つために散歩に出る、友人と短時間だけ会うなど、サポートから一時的に離れる行動を取ります。
- リフレッシュする行動: 趣味の時間を確保する、軽い運動をする、自然の中で過ごすなど、ご自身が心から楽しめる具体的な行動を意識的に行います。
- 相談する行動: 抱え込まず、信頼できる家族や友人、あるいは支援者向けの相談窓口などに、悩みや感情を打ち明ける行動を取ります。言葉にすることで、気持ちの整理がついたり、新たな視点が得られたりします。
- 境界線を設定する行動: 大切な人の問題とご自身の問題を切り離すために、物理的・精神的な境界線を設定する行動(例:「この時間は自分のために使う」「ノーと言う練習をする」)は非常に重要です。
- 感謝や喜びを探す行動: 一日の終わりに感謝していることや嬉しかったことを3つ書き出すなど、日常の中のポジティブな側面に意識を向ける具体的な行動は、心の状態を整えるのに役立ちます。
セルフケアのための行動は、決して「〜しなければならない」という義務感から行うものではありません。ご自身が心地よく、心身が満たされるための「自分を大切にするための行動」として捉えることが大切です。
まとめ
トラウマからの回復は、一歩一歩の積み重ねです。その道のりにおいて、「具体的な行動」は、ご本人が再び自身の力強さを取り戻し、レジリエンスを育むための重要な要素となります。
支援者として、大切な人の回復を支える際は、行動を促すのではなく、本人のペースを尊重しながら、共に小さな一歩を探し、その努力や変化に優しく寄り添う姿勢が大切です。
そして、支援者自身も、ご自身の心身の健康を守るために、「具体的なセルフケアの行動」を意識的に実践することが不可欠です。ご自身を満たす行動は、結果として大切な人へのより良い、そして持続可能なサポートにつながります。
希望を持ち続け、焦らず、行動を通じて回復の道を共に歩んでいくことが、トラウマからの歩き方を進む上で大切な一歩となることでしょう。